ワグナー・ジェームズ・アウの「The Making of Second Life」の邦訳が日経BPから「セカンドライフ 仮想コミュニティがビジネスを創りかえる」として刊行の運びとなった。(8月下旬刊行予定、Amazonのページ)。翻訳は「ウィキノミクス」などを手がけたビジネス書翻訳のエース、井口耕二氏。僭越ながら滑川が短い巻末解説を書かせていただいた。
アウはハワイ出身のウェブ・ジャーナリストで、Wiredなどで活躍していたが、2002年から2006年にかけてセカンドライフ内でリンデンラボの公式ジャーナリストをつとめた。本書の素材の多くは、<ハムレット・リンデン>というアウのアバターがセカンドライフ内で多くの住民のアバターにインタビューして得たものだ。一方で、ワグナー・ジェイズ・アウとしては、リンデンラボのファウンダー、CEOのフィリップ・ローズデール、会長で後援者1号のミッチ・ケイパーら関係者と長時間密接に過ごしている。セカンドライフをそのように二重の意味で内側から記録した大著だ。セカンドライフについて知るべき一次情報はほとんどここに網羅されたといってもいいだろう。
アウが「公式ジャーナリスト」だったといっても、これはリンデンラボのPR本ではない。プラスの面ばかりでなく、数々の失敗やトラブルも詳しく報告されている。いままでベールに覆われていたセックスやロマンス、ギャンブル、バーチャル戦争、テロといったきわどい分野の実情が当事者の証言で明らかにされたのも特筆ものだ。
アメリカのノンフィクションの王道で「詰め込めるだけの情報をすべて詰め込んだ」本なので、読者はとりあえず興味のある箇所を拾い読みするのが効率的かもしれないが、私が通読した印象では、セカンドライフがローズデールというカリスマ的な創立者の個性と切り離せないことがあらてめて実感された。
たとえば、ローズデールは、本書の冒頭で著者に対して、幼少時に新生(ボーン・アゲイン)バプティスト派の学校に通った経験について次のように語っている。
(このキリスト教原理主義は)人間が推進しているものであり、根源的な真理によって推進されているのではないと気づき、(ローズデールは)宗教は駄目だと思ったが、同時に深い考察と物事の意味が大事だということも学んだ。
ローズデールの宗教体験が自らひとつの宇宙を作り出す「神」となりたいと考えるきっかけのひとつを作ったのではないかと思える。
と、このあたりまでは昨年「セカンドライフ創世記」(インプレス)の5章を執筆したときにローズデールについて情報を集めたたときに知ったニュースだったが、この本を読むと彼はそれ以上に「ぶっとんだ」キャラクターだとわかる。
ローズデールはセカンドライフの将来についてさまざまな夢を語った後、ふとこうつぶやいてアウを驚かせる。
あとは、どうやれば死から逃れられるか、だけなんだよなあ
なんとローズデールはセカンドライフの中に個人の人格そのものをシミュレートすることで「バーチャル不死性」を実現できないかと考えていたのだ。
セカンドライフが十分大きくなりさえすれば、それ自体が命を持つ。…そうなればチリから人が生まれるさ
とローズデールは主張する。もちろん現在の技術ではそんなことがいずれ可能になるのかどうかさえ決められそうにない。しかし二十年前の技術では今のセカンドライフのような世界が可能になるとはとうてい予想できなかったに違いない。それを考えるとローズデールのつぶやきを「妄想」と決めつけることはできないだろう。
バーチャル・リアリティーの現実と可能性に興味のある向きにぜひご一読いただきたい。
ちなみにローズデールの最近のビデオがTechCrunch日本版にエンベッドされている。Linden LabのRosedale曰く、ブラウザベースの仮想世界はセカンドライフの敵ではない
「セカンドライフを完全なブラウザ・ベースに移植する考えはないか?」という質問に対し「もちろん努力しているし、部分的には実現している。しかし現在のところブラウザ内ではシャドウやライティングの表現を含めた完全な3Dレンダリングを実現することがまだできない」と答えている。
Update: 著者、Wagner James AuのホームページでJapanese EditionのAmazonページが紹介されていた。カバーデザインがなかなか立派だと喜んでいるようだ。
Update2:著者Wagner James Auのブログ、New World Notesのトップにこのエントリーが紹介された。Thanks a lot, James!
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