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ヨセミテのパーク・レンジャーは「1日しかいられなかったらどうすればいい?」と聞かれると、「マーセド川の岸に座って泣くね」と答えるらしい。しかしこちらはサンフランシスコ国際空港に土曜日の午前10時に着いたら、月曜の早朝からTechCrunch50カンファレンスの取材を始めなければいけない。機材点検、日本との連絡など考えると、遅くも日曜日の午後6時にはサンフランシスコのホテルにチェックインしたい。とすると、すべて含めて32時間しかない。

今年は夏にほとんど休みを取らなかったので、どうしてもこの週末だけはオフにしたい、と思いGoogle Mapsをにらんであれこれ考えた末、とにかくカーナビ付きのレンタカーとマーセドの宿だけは予約しておいた(とにかくヨセミテとサンフランシスコの間でその夜部屋が取れたのはマーセドだけだった)。

Hertzのカウンターに行ってヨセミテに行くつもりだというと、いまキャンペーンやってるからあと40ドル出すだけでニッサン・インフィニティーにアップグレードできるわよ、とお姐さんに言葉たくみに勧められる。どうせめったにない機会なので勧めにのる。

ガレージに行って現物を見ると、でかい。マニュアルも戦争と平和全1巻かとおもうくらい分厚い。

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リモコンキーはビスケットのような楕円形で、ソケットにするりと差し込む。イグニッションはブレーキを踏みながら大きなボタンを長押しするようになっている。そこまで理解するのに15分くらいマニュアルを読んでしまった。全幅は1.93mある。(しかし後で調べたら国内で発売されているランクルは全幅なんと1.97mだった。よく東京の住宅地など走れるものだ)。

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Never LostというHertzご自慢のカーナビにマーセドのHoliday Innをセットして表に出る。日本のカーナビに慣れたユーザーだったら驚くはずだ。画面は最新の携帯電話より小さい。表示されるのも地図というより線画の略図だ。基本的にこのカーナビは視覚象ではなく音声言語で指示を出すようになっている。ヨハネ福音書に曰く、「初めにロゴスがあった。ロゴスは神に向き合ってあった。ロゴスは神であった。」 ロゴスよ、導きたまえ。アーメン。とにかくレフト・ターン・オン・ハイウェイ・エグジット、なんとかという呪文のとおりにハンドルを切っていればいつの間にかアライビング・デスティネーション・オン・ザ・レフト…になる。


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フリーウェイに入ると、なるほどこれは快適なミニ戦車だ。一昨年マツダ・アテンザを直進させるのに苦労したわだち掘れした荒れた路面もまったく苦にせず突進する。55マイルくらいからアクセルを踏むとほとんど一瞬で80マイルくらいまで加速する。乱暴に吹かすと巨大なタイヤがホイールスピンする。

サンマテオ橋を渡ってI580に入り、リバモアを過ぎたあたりで右手に発電風車が林のように並んでいるのが見えてくる。ローレンス・リバモア国立研究所が近くにあるから、そこの施設だろう。ちょうど半月形のダートの駐車スペース(?)があったので車を停めて写真を撮る。

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奇妙だったのは、その広場の一角に石を積んで花と小さな星条旗が飾ってあったことだ。日本でよく交通事故の跡に遺族や友達が置く手向けの花にそっくりだったが、いったい何だったのだろう?

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マーセドにはまだ日が高いうちに着いた。まったくの田舎町だ。ホリデイ・インにチェックインした後、名前だけは頼もしげなヨセミテ・アベニューを少し偵察してみる。しばらく果樹園の間を走ったあといきなり荒野に出た。いやはや―高地は文字どおり地平線のかなたに霞んでいる。

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メインストリートとやらに戻る。いちばん目立つ角に映画館があった。家族づれ、高校生が切符売り場の前で立ち話をしている。水玉のワンピースを来た黒人の婆さんが、ヘイ、ユー、ネバー・セイ・ネバー、あっはっは、と奇声を上げながらメインストリートを往復している。クレイジー・ポリー、とか呼ばれてよく知られている婆さんなんだろう。地元の人間は誰も振り向かない。

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映画館の向いのメキシカン・ダイナーがいちばん無難に見えたので入った。チキンのブリトを注文すると、大人の運動靴くらいある巨大なブリトがやってきた。まずくはないが、半分食べるのがやっとだ。まわりを見回すと皆、ドギーバッグを作ってもらって持ち帰っている。と、やはりウェイトレスが来て、持ち帰ったらどうだと勧める。やむなく持ち帰ることにする。

ホテルの近くまで戻るとミニ・マートが目についた。バドワイザーの看板が出ていたので車を停めた。店は暗くキムチの匂いがした。棚は半分くらい空だ。世話ずきそうな韓国系のおばさんが「何か探しているのか?」と尋ねる。ビールを2本買ってホテルに戻る。受付のおばさんにこの辺の果樹園の木はなんだと尋ねたが、知らなかった。ヨセミテは夜中に飛ばせば1時間半よ、という。それは少し飛ばしすぎだろう。

TechCrunchの記事を確認、メールを読んで返事を出し、Skypeで日本と話す。風呂から出てさてビールを飲もうと思ったが、またせん抜きを忘れたのに気づく。アメリカではビールはいまだにガラス瓶に入ってクラウンで栓がしてあるのを荷造りのときにどうも忘れてしまう。フロントで借りればいいようなものの、服を着るのが面倒で、ドアの取っ手で栓を抜く。これは非常用トリックとして覚えておくと便利だ。栓のヘリをドアの取っ手のヘリのような直角な角にしっかり押しつける。栓を手の平でたたくか、強く握り込むようにする。手をすりむくかないよう栓のまわりをタオルで包んでおいたほうがよい。

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明け方、午前4時半に起床。5少し過ぎに車に乗りこむ。狭い私道を走るとき、つい道の左側を走り始めてしまう。あわてて右側に寄る。「右折小回り、左折大回り」と右側通行の呪文を唱えて真っ暗な通りに出る。何十キロも見通せるのに前後に1台も車が見えない。前回シリコンバレーをあちこち走ったときは時差ボケに死ぬほど悩まされたので、今回は前日徹夜した上に飛行機でもなるべく眠らないようにした。それが効いたか、眠くならない。(Part2へ

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しばらくは真っ暗な街道を走る。天気は? 金星が明けの明星となって強烈に光っているのが心強い。ときおり小さな町が現れる。アメリカ全体ではどうかしらないが、少なくともカリフォルニアでは町中の速度制限はみなよく守る。街道が田舎町にかかると40mph、30mph、25mphと速度制限が厳しくなっていく。学校や教会、役場の近所では20mphぐらいになることもある。すると夜の夜中、他に1台も車が走っていなくてもちゃんと速度を落とす。その代り、55mph制限(フリーウェイ以外ではこれが最高速度)に戻ると、道が空いていればみな75mphくらい出す。幹線フリーウェイの中央より車線の平均速度は80mph(128kmh)ぐらいだ。空いた東関東道の追い越し車線が115kmhくらいだから、それより心持ち速い。

マリポサではまだ暗い。ここから南下してワオナ・ロード側から峡谷に入る道もある。こちらは途中でトンネルビューという景勝ポイントを通る。しかし日曜だ。交通がどのくらい混雑するかわからない。早くビレッジに着きたかったのでエル・ポータルに直行する北側の道を取る。このあたりから本式のワインディング・ロードの上りになるが、依然車影なし。40mphから60mphで快調に進む。

エル・ポータルで道がマーセド川の渓流沿いに出る。午前6:30だ。Holiday Innのおばさんの言ったとおり1時間半で近所まで来てしまった。車のヘッドライトが明るく前方を照らしているのでもわかるが、実際は写真よりもっと暗かった。

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しばらくしてヨセミテ公園のゲートに着いた。小屋は無人で「入園料$20は公園を出るときに払え」と表示してある。ここまでくればひと安心。停車してあたりを眺めてはまた走る。ときおり車が通るようになった。午前7時にエル・カピタンに朝日が射しているのが見えてきた。

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さすがに息を飲む。これを見ただけでもサンフランシスコから走ってきた価値があったな、と口をぽかんと開けてしばし眺める。とにかくスケールが桁はずれだ。

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エル・カピタンを後にして渓谷の底の林の中の快適な道をのんびり走る。エル・カテドラルへの葉キング・コースの入口でコヨーテとすれ違った。コヨーテの見た目は痩せたミニ・オオカミだ。車を停めると一瞬こちらを見たが、カメラを出そうとしている間に用ありげにすたすたと林の奥に消えた。ちょうどこんな感じだった。

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ヨセミテ・ロッジの駐車場に入るとさすがに観光地の雰囲気になる。ロッジの近くは9割がたスペースが埋まっている。しかしロッジの玄関から歩いて1分もかからないところに駐車できた。夜通し走ってきたらしい家族連れがよろよろとSUVから降りてくる。パパが「ワオ、なんだこの混雑は! たいへんな数の車だな」とおどろいていた。日本の観光地の混雑に慣れた目には楽勝のガラ空きに見えるが、マーセドのような田舎町から来たら、こっちの方が大都会みたいに思えるかもしれない。

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ロッジのロビーの奥にツアーデスクがあった。スタッフらしいおっさんに尋ねると「今開けるとこだ」という。無事に8:30のグレイシャー・ポイント・ツアーの切符を買い、裏のフードコートで朝食にする。

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セルフサービスのカフェテリアで、大型の屋台みたいなオープン・キッチンが数箇所に設置されている。「ロッジの朝定食・ライト」というのを注文する。ウィート・ブレッドのトーストに卵料理、ソーセージかベーコン。ベーコンは例によってガリガリに焼かれている。アメリカ人はどうしてあんな黒コゲをクリスピーとかいってありがたがるのか分からない。仕方なくソーセージにする。付け合わせがあったが遠慮する。卵は目玉焼きのミディアムにする。コーヒーはついてくる。皿を持って行ってキャッシャーで払う。うまくもないがまずくもない。近頃の学食ならもう少しましだろう。しかし、まずくなかったらアメリカでは上出来だ。

ロッジの玄関でぶらぶらしているとツアー・バスが来た。アランという運転手兼ガイドは「ヨセミテが好きで何度も来ているうちにこの職を見つけ、住み着いて12年になる」と自己紹介。

ワオナ・ロードを南下する。ワオナ・トンネルの手前で「トンネル・ビューには帰りに寄るから写真はそのときに撮れ」とアナウンス。

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トンネルを出てしばらく上ってからグレイシャー・ポイント・ロードに入る。バスが通れるくらいだから、日本の林道に比べれば広い。しかし補修工事区間が次々に現れる。この道を下ってきて谷側に寄ってバスとすれ違うのはあまり楽しくなさそうだ。タイヤの後が崖っぷちから10センチくらいの路肩にくっきり残っている。ハンドルを握っていたら景色を見る余裕はない。

ガイド兼運転手のアランはしきりに山火事について説明する。ヨセミテ最大の自然災害が山火事だ。夏の乾燥期に落雷で起きる。最近は森林局が「管理された山火事」を起こして人為的に森を焼き払っている。乾季に枯れ草や枯れ木が溜まってから雷で着火するとコントロール不能で延焼する。最近は、雨の後などに風向きなど各種の条件を考慮して当局が山焼きをしているのだそうだ。

1時間ちょいでグレイシャー・ポイント下の駐車場に着いた。

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Part3に続く

Part1はこちら。Part2はこちら

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上はGoogle Mapsのグレイシャー・ポイントの航空写真。三日月形の駐車場にバスが止まっているのが見える。茶色の屋根は土産物などを売っているレストハウス。写真の上(北)端が展望台。

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展望台の方へ歩いていくと地リスが道に出てきた。みな笑って足を止めて待っている。何やらもぐもぐしていたが、やがて右側の藪に消えた。

おなじみハーフドーム。これはただただ感心して眺めるしかない。

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左側に空中に突き出た岩がある。昔はこの上で記念写真が撮れたというが、今はもちろん立派な柵があってそういうことはできない。

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これはたぶんメキシコからの観光客。

マスチフかそのたぐいの大きな犬がご主人が奥さんの写真を撮るのを待っている。

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マサチューセッツの田舎から来たという初老のご夫妻の奥さんが「あなた1人なの? 写真撮ってあげましょうか?」と写真を撮ってくれた。

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帰り道のワオナ・トンネル。これを抜けたところが有名なトンネル・ビューだ。ここもすばらしい。

かなり広い無料駐車場があるから、ゆっくり写真が撮れる。というか日本の景勝地の車の停めにくさが異常。

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写真を撮ってくれたおばさま。若いのをつかまえて「どこから来たの? 大学生?」と聞いている。どうやら高校の先生らしい。

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正面から日が射して、朝とはまた違った表情のエル・カピタン。これもただ息をのむだけ。

バレー・フロアに戻ってあらためて絶壁を見る。これであと一日あれば…しかし、今朝こんなに天気がよかったことはラッキーだったと思いなおす。はるか前から宿を予約してやってきたら雨が続くということだってあるわけだ。

というわけでヨセミテに行ってみたいが時間がないという向きはグレイシャー・ポイント・バス・ツアーに参加することを強くおすすめする。グレイシャー・ポイントとトンネル・ビューという2大ポイントを4時間でまわって、いろいろ解説が聞ける。途中で安全に居眠りもできるし、1人旅でも写真を撮ってもらえる。

グレーシャー・ポイントまでバスで上って、ハイキングでビレッジまで降りてくるのもよさそうだ。片道切符も売っている。朝8:30のバスでヨセミテ・ロッジを出れば、午後遅く4時ごろには帰り着けるそうだ。もちろん食糧、飲み物、用意は必要だ。また1人ではやはり何かと危険。2人以上の仲間と組んで行ったほうがいいだろう。晴れていればいいが、吹き振りあったら秋の高尾さんだって大変だ。まして標高2000m近いわけだから、きちんとした登山用レイン・ウェアは必須だ。

実際、車を走らせているうちに天気は下り坂になった。夕方サンフラシスコ空港で車をチェックアウトしてBARTに乗ったが、パウエル駅で上にを出たら小雨が降り始めていた。

結局32時間で700Kmほど走ったことになるが、でかい車を借りたおかげでまったく疲れなかった。


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